研究内容

アスベストの常温分解法と分解物の再利用技術に関する研究

アスベスト問題は過去の出来事と思っておられる方が多いと思います。しかし,アスベスト建材の90%以上を占める「スレート建材(非飛散性アスベスト建材)」は,民間住宅や近隣の工場,倉庫の屋根や壁に、駅のホームの屋根などに,いまだ広く使用されています。アスベスト含有製品の製造と使用は2004年に 禁止されていますが、アスベスト含有建材を用いた建物は既に30~40年を経ていますので、毎年100万トン以上が廃棄されています。アスベストの廃棄はこれから20年~30年は続くと思われます。アスベストを含むスレートは現在安定型処分場に埋設されていますが、処分場の確保は難しくなっています。私たちは、アスベストによる被害をなくすために、アスベスト含有建材の常温分解法の研究と分解物の再利用法の技術開発に、京都大学、奥村組、環境アネトスとの共同研究で取り組んでいます。その概要を下図に示します。

  • 簡単な装置で、省エネルギー型で、アスベスト繊維を分解(含有率0.1%以下)
  • 埋め立て処分場不足の解消、災害地でも迅速な処理が可能
  • 処理物の建設資材等としての再利用
  • 簡単な装置、省エネルギー型
  • アスベスト繊維の分解(含有率0.1%以下)
  • 埋め立て処分場不足の解消
  • 災害地でも迅速な処理が可能
  • 処理物の建設資材等としての再利用

研究成果(アスベストの常温分解)

硫黄と石灰と水とを混合して、150℃, 0.5MPaで加熱溶解して製造した無機硫黄高分子化合物(Inorganic Polymer sulfide (IPS))を用いるアスベストの常温分解法について研究した。成果の一部を紹介する。
①アスベストを磁製ボールミルに取り、IPS溶液を5~10%(W/W)加える。水をアスベストの2~3倍加え、アルミナボールと一緒にボールミルで室温、約12時間、回転(45~60/rpm)処理するとアスベストは分解した。
②処理後生成物中を粉末X線回折法(XRD)で観測するとアスベスト由来のピークは消え、位相差顕微鏡・分散染色では残存率は0.1%未満となった。
③本法は、標準アスベスト(クリソタイル、クロシドライト、アモサイト、トレモライト)の他、吹付建材中のアスベストやスレート中のアスベストを分解することができた。その結果の一部を以下に示す。

1. スベストの分解(XRD)

アスベストの分解処理前後の粉末X線回折. アスベストの分解処理前後の粉末X線回折

2. スレート中のアスベストの分解(SEM)

分解処理前後の電子顕微鏡写真. (A),処理前: (B), 処理後.

本研究は環境研究総合推進補助金事業で実施しました(K2140, K22096, K2309; 3K143011).

三重津海軍所跡出土遺物の分析

三重津海軍所跡(佐賀)は日本最初の蒸気船の建造・修理を行った場所で、日本最初の木枠構造のドライドックの遺構が発掘された。そのために、「明治日本の産業革命遺産、製鉄・製鋼、造船、石炭産業」として世界文化遺産に登録された(2015年7月)。同史跡からは、蒸気船の建造・修理に必要な銅や鉄製品のほか、鍋島藩の磁器を示す「灘越蝶文」の絵柄の皿や、海軍所を示す「御船方」や「海」、「舩」の銘入り磁器が多数出土した(図1)。これらの磁器は、鍋島藩の役人や海軍所で働く職人、さらには船員が使ったと考えられる。出土磁器は、他では見られない三重津海軍所の特注品である。磁器の生産地を推定するために、九州シンクロトロン光研究センターBL07(5keV~35keV)で、胎土の蛍光分析を行った。磁器の胎土はRb, Sr, Y, Zrにおいて特徴的な含有成分割合を示した。磁器の原料である泉山陶石や天草陶石ではRb>Zr>Y>Srであるが、出土磁器の組成はRb>Zr>Y>Srのものもあるが、Srの含有量が増大しSr>Rb>Zr>Yのものが多い(図2)。陶石の成分からのずれは、他の地元の陶石の混合や、水簸の操作によるものと考えられる。佐賀藩の種々の窯元の出土磁器の胎土と比較して、産地を検討中である。

本研究は佐賀市教育委員会世界遺産調査室の受託研究によって実施された。出土磁器の写真は同調査室より借りた。


図1. 出土磁器一覧

図2. 出土磁器の胎土組成

有明海の干潟の研究

有明海は九州の北西部に位置し、長崎、佐賀、福岡、熊本の4県が面した湾である。干潮時には日本の総干潟面積の1/4に相当する広大な干潟が出現する。海水は底泥の巻き上げの薄く濁っている。通常の青い海でない。しかし、濁った海は干潟に含まれていて養分(タンパク質、窒素、リン等)が溶出しているので、日本一の海苔の生産高をもたらしている。泥干潟は重金属を吸着濃縮するので、海水中の重金属を除去している。しかし、有明海は閉鎖海域であるので近年赤潮の頻度が増大している。有明海の疲弊は諫早湾閉切後、開門・閉門の両訴訟にまでに発展して未解決のままである。疲弊の原因の一つとして、夏季に起きる大規模な底層の貧酸素水塊での硫化水素発生の影響が大きい。硫化水素の発生原因は海苔の酸処理剤であるとの指摘もあるが、水産庁西海区研究所の調査で否定された(水産技術(2015))。我々は、夏季の貧酸素水塊におけるプランクトンの死骸が原因で底泥の硫化水素が発生しやすいと考えている(図1)。
夏と冬に底泥を採取し、底泥中の硫黄化合物の酸化状態をX線吸収端近傍構造(XANES)スペクトル法により測定した。夏の降雨量に依存するが、雨の多い夏では底泥中に硫黄が蓄積し、冬には消えていることが明らかになった(図2)。


図1. 底泥での硫化水素発生と反応

図2. St.15の底泥中の硫黄化合物のXANESスペクトル.
8月にFeSが生成したが、12月には消滅した.